甲状腺機能亢進症と低下症について
甲状腺とは
甲状腺は首の前、のどぼとけのすぐ下にあり、重さが16〜20g、大きさが4.5cm、横4cmの臓器です。
正面から見ると蝶の形に似ています。気管や食道とのつながりはありません。
甲状腺ホルモン(T3、T4)という体に必要不可欠なホルモンを造っています。
甲状腺と脳下垂体について
甲状腺は脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって甲状腺ホルモン分泌の調節を受けています。
たとえば甲状腺が働かなくなると甲状腺ホルモンの分泌が低下します。
その結果、血液中の甲状腺ホルモン濃度が低下し、脳下垂体はそれを感知して甲状腺刺激ホルモンをたくさん分泌します。
反対に血液中の甲状腺ホルモン濃度が上がりすぎると脳下垂体は、それを感知して甲状腺刺激ホルモンの分泌を減らします。(ネガティブフィードバック)
また脳下垂体の異常によっても甲状腺はホルモンの分泌を変化させます。
脳下垂体の働きが悪くなると甲状腺刺激ホルモンの分泌が低下するために甲状腺の機能は低下します。
脳下垂体に甲状腺刺激ホルモンを分泌するような腫瘍ができると甲状腺は刺激を受けて甲状腺ホルモンをたくさん分泌します。
甲状腺ホルモン
甲状腺ホルモンには、2つの種類があります。T4(サイロキシン)とT3(トリヨードサイロニン)です。
甲状腺からは、1日あたり、T4が約80μg[マイクログラム]、T3が約4μg分泌されます。
その大部分は、血清蛋白と結合していますが、実際に直接、体に働く甲状腺ホルモンは、血清蛋白と結合していない遊離T4と遊離T3です。
甲状腺ホルモンは、大きく分けると、次の3つの働きがあると考えられています。
- 1.細胞の新陳代謝を盛んにする
- 代謝とは、脂肪や糖分を燃やしてエネルギーをつくり出し、生体の熱産生を高めることです。
- 2.交感神経を刺激する
- 交感神経が刺激されると、脈が速くなったり、手が震えたりします。
- 3.成長や発達を促進する
- 甲状腺ホルモンは、胎児や小児が正常に成長、発達するために不可欠なホルモンです。
甲状腺はさまざまな作用を持っていますが、おおまかに言えば全身の代謝を高めるホルモンであるということができます。
したがってホルモンが出すぎると、脈が速くなり、体温も上昇し、汗をかくようになります。反対にホルモンが不足すると、脈が遅くなり、体温は低下し、活気がなくなってしまいます。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病かな?無痛性甲状腺症かな?と思ったら)
- □ 暑がりである(夏に弱い)
- □ 汗かきである
- □ 疲れやすい
- □ 動悸がする
- □ 息切れする
- □ 落ち着きが無くイライラする事が多い
- □ 食欲はあるのに体重が減った
- □ 手足が震える
- □ のどぼとけの下が腫れている
- □ 目つきがきつくなったり眼球がでてきたりした
●バセドウ病
20代~30代の若い女性に多い病気で、国内には数万人の患者さんがいると云われています。
バセドウ氏病、グレーブス病とも呼ばれています。全身の新陳代謝が異常に早くなることで、様々な症状があらわれます。
治療せずにほうっておくと重症化するので大変危険です。治療により甲状腺ホルモンが正常値に戻ると症状はおさまります。
原因は体内に甲状腺を刺激する物質(TSHレセプター抗体)ができて甲状腺を刺激し続けることによって起こる病気です。
甲状腺に「ホルモンを分泌せよ」と命令する物質に「似た物質」ができて甲状腺を刺激するので、甲状腺が過剰に反応して甲状腺ホルモンを必要以上に作り分泌してしまいます。甲状腺機能亢進状態になるため、新陳代謝が異常に早くなり様々な症状があらわれます。
●プランマー病(過機能結節:結節とは“しこり”のこと)
甲状腺の働きすぎによって起こる病気です。甲状腺にできたしこりが、甲状腺ホルモンを過剰に分泌する状態のことです。
●無痛性甲状腺炎
甲状腺が何らかの原因で破壊されて、甲状腺内に蓄えられていた甲状腺ホルモンが血液中に漏れて甲状腺中毒症を引き起こす。
検査
- 血液検査
- 甲状腺超音波検査
- 尿検査
- 心電図検査
- 甲状腺ヨード摂取率検査
治療
- ●薬による治療
- チアマゾール(商品名:メルカゾール)、プロピルチオウラシル(商品名:チウラジール)といった抗状腺薬による治療です。
抗甲状腺薬とは、甲状腺ホルモンをおさえる薬です。 - ●アイソトープ治療
- 放射線性ヨード内用療法(アイソトープ療法)は、ヨード制限をした上で放射性ヨードの入ったカプセルを内服するだけのとても簡単な治療法です。
甲状腺の細胞が、甲状腺ホルモンの原料であるヨードという元素をたくさん細胞内に取り込む性質を利用して、バセドウ病の治療や甲状腺癌の遠隔転移の治療を行います。 - ●手術
- 甲状腺ホルモン産生組織を切除して、異常な甲状腺刺激物質(TRAb)が残存甲状腺組織を刺激しても過剰な甲状腺ホルモンが出ないようにすることです。
甲状腺機能低下症(橋本病かな?と思ったら)
- □ なにをするにも億劫である(無気力である)
- □ 皮膚が乾燥してカサカサする
- □ 寒がりになった
- □ むくみがある
- □ 髪や眉がうすくなった
- □ 声がかすれたり低い声で話すようになったりした
- □ 便秘がちである
- □ 物忘れが多くなった
- □ 食欲がない
- □ 体重が増加した
甲状腺機能が低下してくると全身の代謝が低下するため、体のさまざまな機能が低下します。精神機能が低下することによって眠気、記憶障害、抑うつ、無気力を生じます。皮膚は乾燥し、毛がぬけたり、指で押しても跡を残さないむくみを生じたりします。
また声帯がむくむために声がかすれることもあります。消化管運動の低下により便秘になったり、心臓機能の低下により脈が遅くなったりします。
他には体重増加、寒がり、疲労感がよくみられます。
●橋本病
20代後半~40代の患者さんが多く、とくに女性に多い病気です。この病気に関する論文を世界で初めて医学雑誌に発表した九州大学の外科医橋本策博士の名前にちなみ橋本病と名付けられました。慢性甲状腺炎とも呼ばれていて、甲状腺に慢性的に炎症が起きる病気です。甲状腺ホルモンが不足するために新陳代謝が悪くなり様々な症状があらわれます。
症状が似ていることから、うつ病や更年期障害、皮膚病などと間違われて治療されていることもあります。
治療により甲状腺ホルモンが正常値に戻ると症状はなくなります。原因は体内に甲状腺を障害する物質ができることにより甲状腺ホルモンが作られなくなるために起こる病気です。甲状腺機能低下状態になるため、新陳代謝が異常に遅くなり様々な症状があらわれます。
検査
- 血液検査
- 甲状腺超音波検査
- 心電図検査
治療
- ●薬による治療
- 甲状腺機能が低下している場合には、甲状腺ホルモン薬を飲むことにより不足している甲状腺ホルモンを補います。
甲状腺機能が正常であっても甲状腺の腫れが大きい時には甲状腺ホルモン薬を処方することもあります。
甲状腺ホルモン補充療法で最もよく使われる薬です。
レボチロキシンナトリウム水和物(商品名:チラーヂンS)はthyroxine(T4)と呼ばれるホルモンで、体内でtriiodothyronine(T3)と呼ばれるホルモンに変換され、作用を発揮します。
この薬は、甲状腺ホルモンの量が普通より少ない場合、また、甲状腺が肥大しているとき、甲状腺刺激ホルモン(TSH)を抑制し、甲状腺の縮小を目的として服用します。